2013年11月8日 しんぶん赤旗

小学校の色覚検査廃止10年 進学・就職に困難も 希望者に工夫した検査・補正レンズの使用も

 小学校での色覚検査が廃止されて10年。色覚異常を認識しないまま進学や就職に直面するケースが増えています。どのような支援が求められるのでしょうか。(寺田可奈)

事例

  • 黒板の赤いチョークを読みとばした。
  • 工業高校に進学したが、入学時の健診で色覚異常を指摘され困惑した。
  • 警察官になる試験を受けに行き色覚異常を指摘された。
  • 美容専門学校を希望したがヘアカラーの区別が困難。
  • 調理学校の入学願書の健康診断書に色覚記入欄があった。(フグ調理師資格取得に制限あり)
  • 写真を扱う仕事に応募し、色覚を問われた。

 日本眼科医会は先月、2010年度、11年度に行った、先天色覚異常の受診者の実態調査結果を発表しました。受診動機に「進学や就職」をあげた高校生は7割、「就職」をあげた大学生は8割にのぼりました。また、色覚異常と診断された中高生の半数が、自身の色覚を認知していなかったことがわかりました。進学や就職等でさまざまな課題があることも報告され(事例参照)、同会は学校での希望者への検査実施を呼びかけました。

挫折する子も

 全国の工業高校を中心に、進学や就職に関する色覚の影響を調査した、NPO法人「True Colors」(大阪市中央区)理事長の高橋紀子さん(66)は、「自分の色覚を認識しないまま就職や進学に直面し、初めて色覚異常を指摘され、希望や夢が挫折する子どもたちが増えています」と言います。同法人は学校や職場への支援を通じて、色覚特性への理解と社会的配慮を広げたいと活動しています。
 工業高校の調査を行ったのは「さまざまな色の電気配線コードの接続に困る」「LEDの発光色の区別がつかない」などで、進学や就職に支障をきたすおそれがあるからです。
 全国202校に資料を送付し、77校への聞き取り調査を実施しました。多くの教師が「生徒の不採用の理由を企業に問うと、色覚の問題だった」「就職後、生徒が悩みを相談しにきた」などを経験。「本人が自分の色覚を認知したうえで進路を決められるとよいが」「採用制限のないよう企業は努力してほしい」などの要望を持っていました。

色を文字でも

 2001年の労働安全衛生規則の改正で、雇用時の色覚検査は原則廃止され、国は、色覚の違いで採用制限しないよう指導しています。しかし特殊な学校(航空、船舶、鉄道など)や、職業(鉄道、バス、消防、警察など)では現在も色覚の制限があります。また、印刷、塗装、調理などさまざまな職種で、色覚が問われます。
 「色覚異常を知らない人は増えていて、医療と障害のはざまで、社会的支援も不足しています。当事者の中には、かつて学校での一斉検査で心に傷を負ったという人もあり、希望者への検査の際は工夫が必要だと思います」と、高橋さん。学校や家庭では「不用意な言動を避け、正しい色の名を教える」「色を文字で示す」などに心がけてほしいと提案します。

感度に合わせ

 「色覚補正レンズを使って採用試験に合格した学生や、社員にレンズ購入費用を補助する企業もあります」と語るのは、色覚補正レンズ選定機を開発・販売するネオ・ダルトン(大阪市中央区)の社長、足立公さん(58)です。光の3原色(赤・青・緑)を十人十色である個人の感度に合わせ調整し、一般的な見え方に近づけるレンズを取り扱っています。「バス運転手試験に合格した」(30代),「顔色や血管が分かるようになった」(医師)などの声が寄せられており、「必要に応じて補正レンズを使ってもらえれば」と語ります。

色覚異常

色の見え方には個人差があり、大多数の人と比べて色覚検査で大きく異なる場合の医学用語。日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人、日本全体で300万人近く存在します。