2019年12月2日 朝日新聞

路線図を見えやすく改良したJR東日本社員 池田 佳樹さん(35)


 JR東日本の車両内に貼られた路線図がこの秋、変わった。
 従来の図は色弱や高齢の人には見えにくいと気づき、各路線のラインを黒で縁取り、似た色が隣り合うときは片方に模様を入れる提案をした。気がついた人は少ないが、色弱の知人はほめてくれた。
 父は転勤族で両親は車の免許がなく、子どもの頃の外出はいつも鉄道だった。学生時代は建築を専攻。どんなものを造りたいかを考えると「駅」が思い浮かんだ。
 入社5年で異動した社内の研究所で、上司から「研究のネタに困ったら、駅に行って気づいたことを最低100個、付箋に書きだせ」と言われた。建物を眺めるだけではとても100個に届かず、歩く人を観察した。
 エスカレーター前で戸惑う視覚障害者らしき人、大きなトランクを持って窮屈そうに歩く外国人。「自分の家ならば施主は建てるときに要望を伝えられるのに、鉄道会社は、多様な利用者の希望をちゃんと把握して駅を造っているのだろうか」。疑問を持った。
 仕事のかたわら大学院博士課程に通い、駅のどこが誰にとって迷いやすく使いにくいかを調べた。「その人の立場になってみよう」とベビーカーや車椅子も試した。成果の一つが路線図改良だ。
 研究所を離れ現場で働く今も、トイレの臭いを減らす床材質など「駅と人」のよい関係を考え続けている。   (文・写真 高重治香)