2019年12月19日 朝日新聞

シェル美術賞の最高賞を受けた色覚障害のある画家 黒坂 祐さん(28)


 植物は好きだが、花をきれいだと思ったことはなかった。生まれつき色覚障害があり、赤い色が抜けて見える。グレーだと思って買ったイヤホンが、実はピンクだったこともあった。
 若手作家の登竜門「シェル美術賞」で、765作品の中から「夜から朝までの間」がグランプリに選ばれた。抑えられた色調で幾何学的な図形が重なり合う。構成の巧みさ、絵画としての完成度が高く評価された。
 東京芸大のデザイン科をめざしていたが、3年続けて不合格に。一時は芸大をあきらめたが、志望を油画専攻に
変えて合格した。
 描き始めたころは、色の調和がとれずに絵が破綻してしまうこともあった。だが、色の組み合せを試しては覚えた。緑や青緑系など、見え方の誤差が少ない色を中心に「信頼している絵の具」があり、それをベースに制作する。
 「絵には機能がある」。ピカソが描いた肖像画を眺めて、心の不調が回復した経験がある。どんな構造の絵がどんな効果をもたらすのか、ずっと考え続けている。
 東京都新宿区で、元銭湯を改修した「四谷未確認スタジオ」を主宰する。「美術に関わる人たちがつながりを保てる場を作りたかった。場の運営と絵画制作で得たものを、それぞれに生かしたい」
 受賞作は23日まで、東京の国立新美術館で展示されている。   (文・松本紗知 写真・仙波理)