2017年12月9日放送

TBSテレビ【報道特集】色覚異常〜検査の是非は?

 男性の20人に1人いると言われている色覚異常。今、自分がそうであるとは知らないまま育ち就職活動中に発覚し、就職できなくなるというケースが相次いでいる。

 今年10月、小学4年の大久保佑真くんは眼科で色覚検査を受診。正しく答えられるものもあったが・・・。検査の結果、色の見え方の違いを医学上定義した”色覚異常”と診断された大久保佑真くん。近いと思う色を順番に並べていく検査では、佑真くんは綺麗に並べられていなかった。佑真くんは特にオレンジと黄緑、緑と茶色の判別がつきにくいが、医師によると日常生活に特に支障はないという。母・貴子さんはこの検査結果について「佑真は検査前と変わらなく見えるが、私の方が意識してしまう」と告白。これまでの生活の中で佑真くんの色の見え方に違和感を思ったことはなかったが、診断後改めて気づくことがあったという。佑真くんに色覚異常の可能性があることが分かったのは学校での検査が行われた今年6月。実は学校での検査のあり方を巡っては、長年に渡り論争が続いているという。

 色覚異常のある小学生が書いた絵を紹介。その子たちは、ゾウやたぬきを緑で描くなどしていた。色覚異常の人にとっては、ピーマンの緑とパプリカの赤などの区別がつきにくい場合や、中には電光掲示板の背景の黒によって赤色の文字が読みにくいという特徴がある人も。しかしその見え方や程度は人それぞれ。先天性のもので、男性は20人に1人、女性は500人に1人いるが、今の医学では見え方を変えることはできないという。不動産関連会社で働く武智研吾さんも、赤と緑の見分けがつきにくい軽度の色覚異常。思い返せば紅葉を綺麗だと思ったことがあまりないが日常生活ではほとんど困ることはなく、人と人の少しの個性の違いと考えていると話す。そんな武智さんが色覚異常だと知ったのは僅か1年半前。20年以上全く気づかず、就職活動で知ったという。


 電車が好きな武智さんは鉄道会社の採用試験を受けたが、その会社では安全性などを理由に色覚異常について採用を一部制限していて、武智さんはその検査で初めて色覚異常と認識。その上で過去を振り返り、「黒板に書いてある赤いチョークの文字が見えなかったが視力のせいで見えていないと思っていた」などと気づいたという。武智さんはその後鉄道会社の採用試験を自ら辞退。その時について、「早めに知っておけば、就職活動中にうろたえることはなかった」とコメントした。

 1990年には色覚検査が健康診断の項目として学校で一斉に行われていた。2003年に文部科学省が健康診断の必須項目から削除した。検査が差別を招いていると当事者たちから批判の声が上がったからである。井上清三さんは子供の頃に色覚検査がクラス全員の前で受けさせられた。そのときの恥ずかしさは忘れることができない。今はプライバシーに配慮した診断が行われる。井上さんは「学校ではしないべき。突然レッテルを貼るような歴史がある」と述べた。

 学校で検査をしなくなった結果若者が色覚異常を知らずに育ち、就職活動を知ることも多い。21歳の古戸匠さんは幼いころから空の世界に憧れを抱いていて航空整備士になりたがっていた。しかし採用試験は不合格だった。航空整備士は採用時に色覚検査が行われ、古戸さんはそのときに色覚異常を知った。「人によってはその情報が一番キーになることもある。知っていたら全く違う分野に行っていたかもしれない」と話す。こうしたケースがあり学校での色覚検査は復活する傾向にある。眼科医の中村かおる氏は「仕事で色の見分けが必要になったときに少し怪しいなと思ったら周囲の人に助けてもらうことができる」と述べた。

 日本色覚差別撤廃の会の荒伸直さんは「早く知りたいが故に色覚検査を学校でやるべきだという議論にはくみせない。色覚異常は日常生活に支障がなく進行もしない。さらに色覚異常は母親の遺伝子に由来する極めて重要なプライバシーである上に、偏見や差別が残る状態では知らないでいた方がいいと考える人も多い」と述べた。

 学校の検査で色覚異常が分かった大久保佑真くん10歳は「学校で特に嫌な思いはしていない。黒板が見えにくいということもない」と話す。母親は「ただただショック。子どもの見えている世界が分からない」と話す。佑真くんは同じようなオレンジの色の違いを見分けることができる。母親は乗り越えなければいけないのは息子ではなく自分であると話した。

 取材した薄井大郎記者も色覚異常の当事者であるという。「学校で色覚検査を受けて明らかになった。赤と緑や緑と茶色といった色の区別が苦手。幼いころからどんな色が苦手がわかっているので対処することができる。かつては進学や就職で今よりも大きな壁があった。理系学部へ進学にも制限があった。多くは偏見に基づくものだったのでこの差別は忘れていけない。医学的には色覚異常という言葉が使われているが、最近は色覚多様性という言葉もできている。東京の地下鉄の路線図ではバリアフリーが進んでいる。社会からの理解が深まってほしい」と述べた。