2013年2月2日 北海道新聞

健診項目から外れ10年 色弱 教育現場で潜在化 気づかず進学、就職 相当数


健診項目から外れ10年 色弱 教育現場で潜在化
気づかず進学、就職 相当数 眼科医「入学前に検査を」

 義務教育の健康診断で色覚検査が必須でなくなって 10 年たち、検査を受けていない世 代が進学、就職の時期を迎えている。検査を続ける学校は道内では皆無に近く、進路選択の 際に色弱だと初めて知る子どもがいる。受験や採用の条件で「色弱不可」は原則なくなったが、 色覚が問われる資格、職種が一部残っている。色弱への対応は学校ごとの裁量で、「自分の 色覚を早く知ることが大切だ」と希望者に限って検査している学校もある。

 色弱は色を感じる視細胞の中のタンパク質の異常で起き、遺伝する。日本人だと、男性の5%、女性の0.2%に現れる。女性の10人に1人は色弱の遺伝子を持つ保因者だ。
 文部科学省は色覚検査を2002年度を最後に、検診の必須項目から外した。色弱であって も「大半は学校生活に支障はない」との判断からだ。当時、検査は小学校4年生で実施しており、 最後に受けた子供たちが20歳前後になっている。
 検査が事実上廃止されてから、色弱は潜在化している。日本眼科医会の調査では、眼科医を過去2年間に訪ねた941人の色弱の人のうち半数が色弱と気づいていなかった。受診者の 54%は小学生で、以下、高校生13%、社会人11%と続く。
 高校生の受診動機は「就職」が45%、「進学」が21%を占める。眼科医会は色弱の高3生の受診率が推計1.2% と低いため、色覚障害に気づかずに進学、就職の時期を迎えた生徒が相当数いるとみている。
 色覚が問われる職種は航空、船舶、鉄道など運輸関係が中心だ。道央の中学校から船舶関係の学校に進んだある生徒は卒業前、色弱を理由に航海に参加できないと言われ、ショックを受けた。中学校時代の養護教諭は「将来の職業にも関わる問題なので、色覚について本人が知っておく必要がある。色覚の特性を説明したうえで、希望に応じて検査をすべきだ」と話す。
 文科省は、本人と保護者から相談があれば、学校がプライバシーに配慮して個別に検査をするよう指導している。診断を希望する場合は学校眼科医を紹介する。小原眼科医院(札幌市西区)の上野哲治副院長は「色弱かどうかは小学校に入る段階で知っておくべきだ」と早期の検査を促す。
 道教大付属旭川小学校は留意事項を教職員と教育実習生の間で徹底している。養護の森田真弓教諭によると、色弱の子がクラスに1人はいると想定し、「板書の際は赤、青、緑のチョー クを使うと見づらい場合があるので、文字は白か黄色のチョークで書く」といったふうに配慮する。 色の違いを識別しやすいよう日本理化学工業(川崎)が開発したチョークを導入している。
 社会の理解が進む半面、教育現場で色弱への関心は薄れつつある。 西尾直紀副校長は「全ての子どもの夢と希望を支え、応援するために、見え方には特性があることを知らせ、色覚の情報を発信していきたい」と話し、学校や眼科医で色覚検査が受けられることを周知していく考えだ。

スマホで見やすく 無料アプリ「色のめがね」 札幌の研究者 浅田一憲さん開発

 色弱の人が見分けづらい色の組み合わせを見やすくするスマートフォン(多機能携帯電話)のアプリケーション(応用ソフト) がある。「色のめがね」と名づけられ、無料でダウンロードできる。
 開発したのは医学、メディアデザイン学の博士号を持つ札幌在住の研究者浅田一憲さん(51)だ。アプリを起動させて内蔵 カメラを対象に向けると、赤と緑、ピンクと水色といった混同されやすい色が重ならないよう、瞬時に画像処理されて画面に表 示される。
 設定を調整することでほぼすべての色弱のタイプに対応し、何にでもどこででも使える。例えば、色づいたナナカマドにカメラ を向け、識別したい色を赤に設定すると、赤い実の明度が上がり、光っているように見える。
 浅田さんは、色を認識するために網膜から脳に送られる3種類の電気信号を数値化して全ての色に当てはめ、色弱の人が同 じように見える色のどちらかを変えることで識別できるようにした。
 利用者からは「紅葉が初めて見えました」「大腸炎を患い、出血があるかどうかの確認に使っている」などの声が寄せられている。 浅田さんは「見ているものが実際に何色か知りたいとの希望が多いので、色の名前を表示できるよう改良したい」と話している。
 色弱の人が見分けにくい色かどうかすぐに確認できる無料アプリ「色のシミュレータ」も開発している。二つのアプリのダウンロード数は2010年8月の開発以来、国内外で計9万件に達する