月刊なるほドリ 2017年11月号

遺伝学「優性・劣性」なぜ変える? 誤解や偏見避けるため「顕性・潜性」に

 なるほドリ 遺伝学の用語が変わるの?
 記者    全国の生物学者らで作る日本遺伝学会が、100年以上にわたり遺伝学の論文や講義などで使ってきた「優性」「劣性」などの言葉を、それぞれ「顕性」「潜性」などに改めると決めました。文部科学省にも教科書の書き換えを要請する方針です。
 Q  なぜ変えるの?
 A  優性、劣性という言葉は、二つの遺伝子を比較した場合に「特徴が表れやすい」「表れにくい」という意味を指します。しかし語感から「優れた」「劣った」との意味に誤解されがちでした。「顕」は「はっきり見える」、「潜」は「隠れる」という意味があります。
 Q  特徴の表れやすさって何なの?
 A  有名な例は血液型です。片方の親からA型を、もう片方の親からO型を受け継いだ子はA型になります。A型の遺伝子が「顕性」で、O型の遺伝子が「潜性」だからです。遺伝子のこうした性質は、オーストリアのメンデルが1866年に論文で発表しました。
 Q  特徴の表れやすさの違いって他にもあるの?
 A  人の場合 ▽まぶたが二重、一重 ▽つむじが右巻き、左巻き ▽字に巻ける、巻けない ▽耳あかが湿っている、乾いてる ▽目が茶色い、青いーーなどがありますが、いずれも生存に有利、不利はありません。
 Q  病気になりやすい遺伝子もあるの?
 A  親が病気の原因となる遺伝子を持っている場合、一定の割合で子に遺伝します。それが潜性の遺伝子だと、親の世代では病気の症状が表れなくても、子や孫の世代になって表れる場合もあります。そうした遺伝病は数百種類あり、どんな健康な人でも潜性の病気遺伝子を5〜10個、持っているそうです。遺伝の複雑な仕組みや多様性が明らかになった今日、偏見や不安を招きかねない「優劣」という表現は改めるべきだ、と科学者は結論づけたのです。

日本遺伝学会が改訂した主な用語
<旧>  <新>   <改訂の理由>
優性  →顕性    「優劣」の語感が誤解を招きがち
劣性  →潜性
突然変異→変異    原語「mutation」に突然の意味がない
変異  →多様性   原語「variation」の本来の意味
色覚異常→色覚多様性 科学的に中立な表現に

「優性」「劣性」廃止 偏見払拭に学会決定

 日本遺伝子学会は、約1世紀にわたり遺伝学で使われてきた「優性」「劣性」という用語を、それぞれ「顕性」「潜性」に改めると決めた。遺伝子に優劣があるとの偏見や不安を払拭する狙いがある。同学会は一般向けに初の用語集を出版し、普及を図る。
 同学会は約100の遺伝学用語を見直した。例えば、「突然変異」(mutation)は原語に「突然」という意味が含まれないため「変異」に。「変異」と訳されてきた「variation」は「多様性」と改めた。また、「色覚異常」や「色盲」という用語については、日本人男性の20人に1人が相当することなどから、「異常と呼ぶのは不適当」との意見で集約。科学的に中立な「色覚多様性」という表現を採用した。
         【阿部周一】(2017年9月13日掲載)

人によって色の見え方が違うことを分かりやすく表現した絵本「けんちゃんの色」。大阪のNPO法人「トゥルーカラーズ」が制作。問い合わせは(06-4708-5833)