2018年10月1日 「社会教育」10月号

新連載 国内NPO研究 ケース(1)
色覚バリアフリーを目指して 特定非営利活動法人True Colors

放送大学教授 岩崎久美子

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 みなさんは色覚検査を受けた経験があるであろうか。色覚検査は、かつては小学校の健康診断で義務づけられていたが、「差別につながる」との声を受けて2003年度から義務ではなくなり、必要に応じて自治体が実施することになった。そのため、現在では色覚検査は多くの自治体では実施されていない。また、厚生労働省は2001年民間企業による雇用時の検査として色覚検査を原則撤廃しており、鉄道の運転士、消防士、パイロットなどの一部職種を除き、大部分の職業での制限はなくなってきている。

 このように色覚検査が廃止され10年以上たち、社会において「色覚異常」として過度に意識化されず色覚弱者が精神的に過ごしやすくなったとされる一方で、色覚検査を受けずに育った子どもたちが成人し就職の時期を迎え、そこで初めて色覚特性を知る場合も出てきた。たとえば、美容師志望の者が「ヘアカラーの色が分りにくい」など、実際に認識ができないことで仕事上不都合が生じることもある。文部科学省は2014年度に、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう、保険調査に色覚に関する項目を新たに追加するなど、より積極的に保護者等への周知を図る必要があることを通知している。

2. 具体的活動

 このような状況の中で、True Colorsは、色覚についての正しい知識を得てもらうための啓発活動と、色覚補正レンズや逆特性レンズによる体験活動を通じ、カラーバリアフリー社会を目指す活動を行なっている。この目的のため、具体的には次のような事業を行っている。

(1) 色覚についての啓発活動

 人それぞれが異なるように、目に映る色の見え方や感じ方も人によって異なる。色覚について、色が見える仕組み、色の見え方の違いなど図解、色に溢れたポスターなどを展示し「自分と違う色の見え方をしたら色はどう変わる?」という体験型イベントを実施している。「自分が見えている色は実は不思議なもの」をテーマに、「フシギな色の国のアリスちゃん」というアニメーションを作成し、興味を持って子どもたちが理解できるような教材づくりもしている。また、色覚検査がなくなったことにより、色覚についての正確な知識を伝達する機会が減少していることもあり、養護教諭研修会、学校保健会、あるいは学校や特別支援教育専攻のある大学などでの研修・講演を積極的に行っている。

(2) 色覚補正レンズ、逆特性レンズ(色覚異常疑似体験レンズ)の体験研修会

 色覚弱者の人々の見え方、そして、多くの人々の見え方がわかる特殊なレンズを開発し、多くの人々に体験してもらう機会を提供している。たとえば、一般色覚者である色覚多数者には逆特性レンズを、色覚少数者には一般色覚を体験してもらい、お互いの理解を深めてもらう体験会である。色覚少数者では、この色覚補正レンズにより多数の人が感じる色覚を体験することができる。この体験で多数の人々が見える色を体感でき、感動する人も多いと言う。