2015年9月1日 読売新聞

色のバリアフリー 学校から
「色覚異常」先生が学ぶ 板書に工夫 ■ 対応教科書



 小学校の先生が色覚異常の知識を学び、分かりやすい配色を授業に取り入れる試みが始まっている。かつては学校での色覚検査などが差別を助長するとされたが、色覚異常に対応した教科書も開発されるなど、学校現場で「色のバリアフリー」への意識が高まりつつある。

■十人十色

 大阪市生野区の市立東桃谷小で7月下旬、教諭が色覚異常について学ぶ勉強会が開かれた。
 「赤色が茶色っぽく見える」「こんなふうに見えているのか」。教諭約10人が、色覚異常を体験できるレンズをのぞくと、普段とは違う色の世界に驚きの声があがった。
 講師のNPO法人「トゥルーカラーズ」(大阪市中央区)理事長・高橋紀子さん(68)が「黒板に赤いチョークで書くと見えにくい」と説明。「色の見え方は誰もが異なり、十人十色。児童が隠すことなく『見え方が違うねん』と自然に言える環境作りも大切です」
 受講した相川玲教諭(24)は「授業では、便利だから色分けしたカードを多用していたけれど、今後は文字情報もつけたい」と話した。
 別の市立小学校でも今春に勉強会を開いた後、板書では重要な用語を赤のチョークで書くのではなく、線で囲んで示すなど実践しているという。

■相談相次ぐ

 色覚検査は12年前、ほとんどの小学校から姿を消した。「就職や進学などの差別につながる」などの声が強く、文部科学省が2003年度、健康診断の必須項目から色覚検査を削除したためだ。任意検査は可能だったが、大半の学校で行われなくなった。
 しかし、検査を受けなかった人が、パイロットなど就職に制限のある一部の職業で採用試験を受けて初めて色覚異常に気づくなどの問題が表面化。文科省は昨春、任意検査について積極的に周知し、保護者の同意を得た上で検査する態勢を整えるよう求める通知を出した。
 トゥルーカラーズによると、通知を受け、大阪市内でも今年度から任意検査を始めた小学校が増加。これに伴い、教諭から「配慮の仕方がわからない」などの問い合わせが相次ぎ、勉強会の開催は10校を超えた。NPO法人「カラーユニバーサルデザイン機構」(東京)にも昨年度から相談が増え、勉強会や講演会を都内各地で開いているという。

■赤から青に

 教科書業界でも対応が進みつつある。
 新興出版社啓林館(大阪市天王寺区)は、来年度の中学理科の教科書で、色覚異常でも見えやすい色遣いを導入する。
 従来の教科書では、キーワードを覚えるため、赤色のフィルターを使って赤色の文字を隠す方式だったが、色覚異常だとほかの文字も見えにくくなる人がいることが分かり、2年かけて改良。青色を基調にした文字と青色フィルターを使う方法に変更した。担当者は「教科書が使いにくいとの理由で学習につまずかないよう、誰もが使いやすい教科書を目指した」と話す。

自治体 取り組み拡大

 自治体でも色のバリアフリーの取り組みが始まっている。神奈川県や大阪府などは、標識や案内板を設置する際のガイドラインを設け、「見分けにくい色の組み合わせを避ける」「明るさで差をつける」などの例を示している。また、押しボタン式信号の「おまちください」などの表示を赤から白に変える動きも広がっている。
 藤川大祐・千葉大教授(教育方法学)は「色覚異常の人はかなり多く、学校現場でこれまで配慮が十分でなかったのがおかしいくらいだ。学校に限らず街や職場でも、誰もがわかりやすい配色や文字、記号などを用いたデザインを当たり前に採用できる環境をもっと広げてほしい」と指摘している。

【色覚異常】

 色を感知する細胞の異常により、色の見え方が一般と異なること。先天性は日本人の男性で20人に1人、女性で500人に1人の割合でいるとされる。大半で生活に支障はなく、「異常」という言葉遣いへの異論もある。業務に支障がないのに採用制限されることがあるとして、国は2001年、雇用時の健康診断で義務づけていた色覚検査を廃止した。