2021年2月6日 毎日新聞

色覚多様性 知って ユニホーム 特別感優先に警鐘


 新型コロナウイルスの感染拡大により1年延期された東京パラリンピックは5日、2度目の開幕200日前を迎えた。東京大会はパラ競技の対象となる障害者にとどまらず、日常生活にバリアー(障壁)を持つ人々が生活しやすい社会をつくるきっかけになることが期待されている。近年ではスポーツ観戦でもさまざまな色の見え方に配慮した「カラーユニバーサルデザイン」の考えが重要視されている。ユニホームデザインの第一人者である大岩Larry正志さん(45)に国内の現状と課題について話を聞いた。【聞き手・岩壁峻】

パラ開幕200日前
 ーー1月17日に行われたサッカーのイングランド・プレミアリーグのリバプール ー マンチェスター・ユナイテッド(マンU)戦で、マンUのユニホームが対戦相手と同じ色に見えると色覚障害を持つ人から苦情が出ました=写真・ロイター。
 ◆当日の試合を確認したが、ユニホームをデザインする立場から見てもマンUのモスグリーンとリバプールの赤は濃度が似通うので「見分けが付くのだろうか」と感じた。同じピッチ、コートで敵と味方が交わるサッカーやバスケットボールはユニホームの濃淡を明確に分ける必要がある。あの試合で一人でも濃度の類似性にしっかり気づいていれば、混乱を回避できたはずだ。
 今回の問題はマンUが特別ユニホームを使用したことに端を発するが、ファンサービスの一環としてユニホームが多様化してきたことによる弊害が垣間見える。対戦チーム同士ではユニホームの濃度がかぶらないようにすることが原則だが、各プロスポーツで特別ユニホームが多く作られている近年の傾向を見ても、その原則が置いてけぼりになっている感じがする。
 ーーデザインをする際、ユニホームの視認性はどれくらい意識しますか。
 ◆日本の場合、視認性に関してはサッカーのJリーグとバスケットボールのBリーグが比較的厳格に審査している。JリーグとBリーグでは、デザインしたユニホームをリーグ側にチェックしてもらう必要がある。ホームのユニホームなら濃い色、アウェーなら淡い色を使用するよう求められており、用意したデザインをクラブに提出し、リーグに審査してもらう流れだ。淡い色なら「白にどれほど近い色なのか」が基準になる。今季はJ2のモンテディオ山形のユニホームを手がけていて、アウェーはベージュを基調にしている。もう少しベージュの色味を強くしたかったが、リーグの規定もあるので濃度を抑えた。
 ーーそもそも特別ユニホームが日本で広まった経緯は。
 ◆日本ではここ10年ほどで浸透した印象だ。野球であれば米メジャーリーグが取り入れているから、というのが主な理由になる。メジャーリーグでは米海軍への敬意を示すために迷彩柄を取り入れるパドレスのほか、リーグ全体でも母の日(ピンク)や父の日(水色)に色を統一するなど特別ユニホームの着用に意義がある。一方で、後発の日本では営業ツールという側面が強い。もちろん特別ユニホームを楽しみに球場に来るファンが多いことも理解しているが、種類を増やしすぎて見分けの付きにくさを招いてしまったら本末転倒だ。
 私自身、プロ野球では今季、ヤクルトと楽天の特別ユニホームを手がけているが、企画段階から球団と話し合う。基本的には前年の序盤から製作に着手し、時には監督や選手に意見を求める場合もある。球団伝統のカラーやコンセプトにマッチしたもの、視認性の高いものを作ることが前提だ。特別ユニホームについては、プロ野球全体としても一度立ち止まってその意義を考えることも必要ではないかと考えている。
 ーーカラーユニバーサルデザインの考え方は、プロ野球をはじめ日本のプロスポーツではまだ発展途上です。
 ◆「誰の目にも楽しめる」という決まりは取り入れるべきだし、ルールの範囲内でデザインするのも私たちの腕の見せどころだ。「自分の好きな色を使いたい」と思っていても、デザインに機能性を持たせなければ作り手のエゴになってしまう。多くの人々に着てもらい、スポーツ観戦を盛り上げるためのツールがユニホーム。色覚障害を抱える人を含め、多くのファンに受け入れてもらえる作品を目指したい。

色覚障害
 色を感じる目の細胞「錐体(すいたい)」の中の3種類のたんぱく質のうち、いずれかがなかったり、働きが弱かったりすることで特定の色の判別が難しくなる障害。日本遺伝学会は「色覚多様性」との用語を提唱している。色覚の多様性に対応した社会を目指すNPO法人「カラーユニバーサルデザイン機構」によると、国内では男性で20人に1人、女性で500人に1人、計約320万人以上に色覚障害があるとされる。